高齢者のRSウイルス(RSV)感染症

  1. RSウイルス(RSV)とは?

概要

RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus, RSV) は、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)に属するRNAウイルスで、主に乳幼児の気道感染症の原因として知られています。しかし、高齢者においても重症化リスクが高いことが近年の研究で明らかになっています。

  • 感染経路:飛沫感染、接触感染
  • 潜伏期間:2~8日(平均4~6日)
  • 流行時期:秋~冬(特に11~3月)
  1. 高齢者におけるRSV感染の疫学と影響

感染率と入院リスク

  • 60歳以上の成人の年間感染率3~7% と推定されており、インフルエンザに次いで一般的な呼吸器ウイルスです。
  • 米国のデータ(CDC, 2023)
    • 年間約6万~12万人の高齢者がRSVで入院
    • 年間約6,000人がRSV関連で死亡

高齢者の重症化リスク因子

  • 慢性呼吸器疾患(COPD、喘息、間質性肺炎など)
  • 慢性心疾患(うっ血性心不全、冠動脈疾患など)
  • 免疫不全(がん治療中、臓器移植後、HIVなど)
  • 糖尿病
  • 慢性腎疾患
  • 施設入所(老人ホームや介護施設)
  1. RSV感染症の臨床症状と診断

臨床症状

高齢者では症状が非特異的で、インフルエンザやCOVID-19と類似することが多く、診断が困難な場合があります。

症状 発症頻度
発熱 50~70%
咳嗽 80~90%
喀痰 50~70%
呼吸困難 40~60%
喘鳴 30~50%
筋肉痛・倦怠感 30~50%
食欲不振・意識障害 20~40%(高齢者特有)

重症化のパターン

  1. RSV肺炎(急性呼吸不全を伴う)
  2. RSV誘発性COPD増悪
  3. RSV誘発性心不全増悪

診断方法

  • 迅速抗原検査(Rapid Antigen Test):感度が低く、高齢者では推奨されない
  • PCR検査(RT-PCR):最も感度・特異度が高く推奨されるが、入院外は保険適応とならない可能性がある。
  • ウイルス培養:臨床現場では実施困難
  • 血清学的検査(抗体価測定):診断には不向き
  1. RSV感染の治療と管理

支持療法(第一選択)

  • 酸素療法(SpO₂ < 92% の場合)
  • 輸液管理(脱水を予防)
  • 解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)
  • 気管支拡張薬(β2刺激薬)(COPD併存患者では有効な場合あり)

抗ウイルス療法

  • リバビリン(Ribavirin)
    • 過去にRSV治療薬として使用されていたが、有効性が不確実で高コストのため現在は推奨されていない
    • 免疫不全患者の重症例に限り適応

抗体療法(モノクローナル抗体)

  • パリビズマブ(Palivizumab):小児用(高齢者には適応なし)
  • ニルセビマブ(Nirsevimab):新生児向け(高齢者には適応なし)
  1. RSV感染症の予防(ワクチンと免疫グロブリン)

RSVワクチン

2023年、高齢者向けRSVワクチンが初めて承認されました。

ワクチン名 メーカー ワクチンタイプ 適応年齢 有効性
アレックスビー(Arexvy) GSK 組換えサブユニットワクチン(Fタンパク質 + AS01アジュバント) 60歳以上 82.6%(RSV-LRTD)
アブリスボ(Abrysvo) Pfizer mRNAワクチン 60歳以上、妊婦 66.7%(RSV-LRTD)
  • 接種回数:1回(追加接種の必要性は評価中)

非特異的予防策

  • 手洗い・手指消毒(アルコールが有効)
  • マスク着用(飛沫感染予防)
  • 高齢者施設での感染管理(発症者の隔離、訪問制限)
  1. まとめと臨床的意義

RSVは高齢者においてインフルエンザと同等の重症化リスクを持つ
PCR検査が診断のゴールドスタンダード
治療は支持療法が中心、リバビリンは基本的に使用しない
2023年にRSVワクチン(Arexvy, Abrysvo)が承認され、高齢者の予防が可能に
高齢者施設や慢性疾患を持つ患者には特にワクチン接種を推奨

RSV感染症は今後も高齢者医療において重要な疾患の一つとなるため、最新の知見を踏まえた対応が求められます。

参考文献

  • CDC, RSV in Older Adults, 2023
  • FDA Approval Letter for Arexvy, 2023
  • GSK Clinical Trial Data, 2023
  1. 当院でのワクチン

電話でご予約可能です。または当院スタッフまでご相談ください。

アレックスビー 27,500円(自費)

 

上記金額に初再診料が別にかかります。(2025年4月5日現在の価格)

東戸塚メディカルクリニック