蕁麻疹

1. 定義と分類

蕁麻疹(Urticaria)は、皮膚や粘膜に突然出現する、痒みを伴う膨疹(wheal)を主徴とする疾患です。数分から数時間以内に消退することが典型的ですが、慢性化することもあります。血管透過性の亢進により真皮上層に血管性浮腫が生じることで膨疹が形成され、肥満細胞からのヒスタミンなどの化学伝達物質の放出がその主な原因となります。[1]

蕁麻疹は、発症期間や原因に基づいて以下のように分類されます。[1, 2]

発症期間による分類:

  • 急性蕁麻疹: 6週間以内に症状が消失するもの。原因が特定できる場合もありますが、不明なことも多いです。
  • 慢性蕁麻疹: 6週間以上、ほぼ毎日あるいは繰り返し症状が出現するもの。特発性(原因不明)が多いですが、自己免疫性や物理性などが原因となることもあります。

原因・誘因による分類:

  • アレルギー性蕁麻疹: 特定のアレルゲン(食物、薬剤、昆虫など)にIgE抗体が介在して肥満細胞が活性化され、発症します。
  • 非アレルギー性蕁麻疹: アレルゲン以外の刺激(物理的刺激、コリン作動性、寒冷、温熱、日光、圧迫、振動、水など)、薬剤、食品添加物、感染症、ストレスなどが原因や誘因となります。
  • 自己免疫性蕁麻疹: 自己抗体が肥満細胞や好塩基球を活性化することで発症します。慢性特発性蕁麻疹の一部に含まれます。
  • 血管性浮腫: 皮膚深層や粘膜の血管透過性が亢進し、限局性の腫脹が生じます。蕁麻疹に合併することもありますが、単独で起こることもあります。C1インヒビター異常による遺伝性血管性浮腫や後天性血管性浮腫は、ヒスタミン以外のメディエーターが関与します。
  • 慢性特発性蕁麻疹(Chronic Spontaneous Urticaria: CSU): 明らかな原因や誘因が特定できない慢性蕁麻疹。自己免疫性の関与が示唆されています。
  • 物理性蕁麻疹: 機械的刺激(摩擦、圧迫、振動)、温度変化(寒冷、温熱)、日光、水など特定の物理的刺激によって誘発される蕁麻疹の総称。
  • コリン作動性蕁麻疹: 運動、入浴、精神的緊張などにより発汗を伴う際に、小さな膨疹が多発します。アセチルコリンが関与すると考えられています。

2. 疫学

蕁麻疹は比較的頻度の高い疾患であり、生涯に一度は経験する人が約20%に及ぶと報告されています。[3] 急性蕁麻疹はあらゆる年齢層に発症しますが、慢性蕁麻疹は成人女性にやや多い傾向があります。[4]

3. 病態生理

蕁麻疹の基本的な病態は、皮膚や粘膜の肥満細胞からのヒスタミンをはじめとする化学伝達物質の放出です。これにより、血管透過性が亢進し、真皮上層に血管性浮腫が生じ、膨疹とかゆみが引き起こされます。[1]

ヒスタミン放出のメカニズムは、アレルギー性と非アレルギー性で異なります。

  • アレルギー性: アレルゲンがIgE抗体と結合し、肥満細胞表面のFcεRI受容体を架橋することで、細胞内シグナルが活性化され、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が脱顆粒により放出されます。
  • 非アレルギー性: 物理的刺激、薬剤、食品添加物、補体活性化、自己抗体など、様々な刺激が直接的または間接的に肥満細胞を活性化し、ヒスタミンを放出します。コリン作動性蕁麻疹では、アセチルコリンが汗腺周囲の肥満細胞に作用して脱顆粒を引き起こすと考えられています。自己免疫性蕁麻疹では、IgG型の自己抗体(抗FcεRIα抗体や抗IgE抗体など)が肥満細胞や好塩基球を活性化します。

血管性浮腫では、ヒスタミンだけでなく、ブラジキニンなどの他のメディエーターの関与も重要です。遺伝性血管性浮腫や後天性血管性浮腫では、C1インヒビターの機能不全によりブラジキニンの産生が亢進します。

4. 臨床症状

蕁麻疹の主症状は、突然出現する、境界明瞭でわずかに隆起した紅斑(膨疹)と、それに伴う強い痒みです。膨疹の大きさや形状は様々で、融合して地図状や環状になることもあります。通常、数分から数時間以内に跡を残さずに消退しますが、次々と新しい膨疹が出現することもあります。[1]

血管性浮腫は、皮膚深層や粘膜に生じる限局性の腫脹で、数時間から数日持続することがあります。顔面(特に口唇や眼瞼)、舌、咽頭、手足などに起こりやすく、呼吸困難や嚥下困難を伴う場合は緊急の対応が必要です。

5. 診断

蕁麻疹の診断は、主に患者の病歴と臨床症状に基づいて行われます。[1]

  • 病歴聴取: 発症時期、症状の出現状況、持続時間、誘因(食物、薬剤、物理的刺激、運動、ストレスなど)、既往歴(アレルギー疾患、自己免疫疾患など)、家族歴などを詳しく聴取します。
  • 皮膚所見: 典型的な膨疹の存在を確認します。
  • 誘発試験: 物理性蕁麻疹が疑われる場合には、皮膚に物理的な刺激を加えて症状の再現性を確認する誘発試験(アイスキューブ試験、温水刺激試験、ダーモグラフィズム試験など)を行うことがあります。
  • 血液検査:
    • アレルギー性蕁麻疹が疑われる場合には、特異的IgE抗体検査(RAST検査、CAP-RAST検査)を行います。
    • 慢性蕁麻疹の場合には、一般血液検査、炎症反応(CRP、ESR)、甲状腺機能検査、自己抗体検査(抗甲状腺抗体、抗核抗体など)などを行うことがあります。
    • 自己免疫性蕁麻疹の可能性が高い場合には、自己抗体(抗FcεRIα抗体、抗IgE抗体)の測定を行うことがあります。
  • 皮膚生検: 通常は必要ありませんが、診断が不明な場合や、他の皮膚疾患との鑑別が必要な場合に考慮されます。
  • C1インヒビター検査: 血管性浮腫が疑われる場合には、C1インヒビターの活性や量を測定します。

6. 治療

蕁麻疹の治療の基本は、原因や誘因の除去・回避と薬物療法です。[1, 5]

  • 原因・誘因の除去・回避: 特定のアレルゲンや物理的刺激などが明らかな場合には、可能な限りそれらを避けることが重要です。
  • 薬物療法:
    • 抗ヒスタミン薬: H1受容体拮抗薬が第一選択薬として用いられます。効果不十分な場合には、異なる種類の抗ヒスタミン薬への変更や増量、あるいは複数の抗ヒスタミン薬の併用を考慮します。第二世代の抗ヒスタミン薬は眠気などの副作用が少ないため、推奨されます。
    • H2受容体拮抗薬: H1受容体拮抗薬との併用で、一部の患者において症状の改善が見られることがあります。
    • ロイコトリエン受容体拮抗薬: アレルギー性蕁麻疹やアスピリン不耐容の蕁麻疹に対して有効な場合があります。
    • 経口ステロイド薬: 重症の急性蕁麻疹や慢性蕁麻疹の急性増悪期に、短期間使用されることがあります。長期的な使用は副作用のリスクが高いため、避けるべきです。
    • 免疫抑制薬: シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制薬は、難治性の慢性蕁麻疹に対して考慮されることがあります。
    • 生物学的製剤: オマリズマブ(抗IgE抗体)は、既存の治療で効果不十分な慢性特発性蕁麻疹に対して有効性が示されています。
    • その他: 慢性蕁麻疹に対して、漢方薬や精神安定薬などが補助的に用いられることがあります。
  • 血管性浮腫の治療:
    • 急性期: 気道閉塞のリスクがある場合には、アドレナリン自己注射薬の使用や気道確保などの緊急処置が必要です。
    • 薬物療法: 遺伝性血管性浮腫に対しては、C1インヒビター製剤、エカランチド、イカチバントなどが用いられます。後天性血管性浮腫に対しては、基礎疾患の治療や免疫抑制療法が行われます。抗ヒスタミン薬やステロイド薬の効果は限定的です。

7. 最新の知見

近年、蕁麻疹、特に慢性蕁麻疹の病態解明と治療法開発において進展が見られています。

  • 自己免疫性蕁麻疹の理解: 自己抗体(抗FcεRIα抗体、抗IgE抗体)の病態における役割がより深く理解され、診断や治療標的としての重要性が増しています。[6]
  • オマリズマブの臨床応用: 抗IgE抗体であるオマリズマブは、難治性の慢性特発性蕁麻疹に対して高い有効性を示し、治療選択肢の一つとして確立されています。[7]
  • 新規生物学的製剤の開発: 肥満細胞の活性化に関わる新たな分子を標的とした生物学的製剤の開発が進められています。
  • JAK阻害薬の可能性: アトピー性皮膚炎などで使用されているJAK阻害薬が、慢性蕁麻疹に対しても有効性を示す可能性が示唆されており、今後の臨床試験の結果が注目されます。[8]
  • バイオマーカーの研究: 慢性蕁麻疹の病型分類や治療反応性の予測に役立つバイオマーカーの研究が進められています。
  • ガイドラインの改訂: 各国の皮膚科学会が、最新のエビデンスに基づいた蕁麻疹診療ガイドラインを定期的に改訂しています。[2, 5]

8. 出典

  1. 日本皮膚科学会. 蕁麻疹診療ガイドライン2018.
  2. Zuberbier T, Maurer M, Spek PJ van der, et al. The EAACI/GA²LEN/EDF/WAO guideline for the definition, classification, diagnosis and management of urticaria: the 2017 revision and update. Allergy. 2018;73(7):1393-1414.  
  3. Sussman GL, Liss GM, Stingl G, et al. Global burden of chronic spontaneous urticaria: a systematic review. Allergy. 2018;73(11):2173-2181.
  4. Maurer M, Weller K, Bindslev-Jensen C, et al. Unmet clinical needs in chronic spontaneous urticaria. A GA²LEN task force report. Allergy. 2011;66(3):317-331.  
  5. EAACI/GA²LEN/EDF/WAO. Urticaria guideline 2022. Allergy. 2022;77(6):1655-1690.
  6. Kaplan AP, Ferrer M, Bernstein JA, et al. Diagnosis of chronic spontaneous urticaria with emphasis on underlying autoimmunity. J Allergy Clin Immunol Pract. 2018;6(1):24-32.
  7. Maurer M, Rosén K, Hentgen V, et al. Omalizumab for the treatment of chronic idiopathic or spontaneous urticaria. N Engl J Med. 2013;368(10):924-935.
  8. аллергия и астма. JAK inhibitors for the treatment of chronic spontaneous urticaria: A systematic review. J Allergy Clin Immunol Pract. 2021;9(1):364-374.
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