大腸ポリープ

大腸ポリープは、大腸内腔に突出した異常な組織の総称であり、その組織学的特徴や癌化のリスクは多岐にわたります。

1. 大腸ポリープの種類と特徴

大腸ポリープは、組織学的分類に基づき、主に以下のように分類されます。[1]

  • 腫瘍性ポリープ(腺腫性ポリープ):
    • 大腸癌の大部分は腺腫から発生すると考えられており、癌化のリスクがあります。
    • 管状腺腫 (Tubular adenoma): 最も頻度が高く、癌化リスクは比較的小さいとされます。
    • 絨毛腺腫 (Villous adenoma): 癌化リスクが高く、サイズが大きいものが多い傾向があります。
    • 管状絨毛腺腫 (Tubulovillous adenoma): 管状腺腫と絨毛腺腫の中間の性質を持ちます。
    • 鋸歯状病変 (Serrated lesions): 近年注目されている病変で、癌化のリスクがあります。
      • 過形成性ポリープ (Hyperplastic polyp): 従来は癌化リスクが低いとされていましたが、一部は鋸歯状腺腫への進展が示唆されています。主に直腸・S状結腸に好発します。
      • 無茎性鋸歯状腺腫/ポリープ (Sessile serrated adenoma/polyp, SSA/P): 右側結腸に好発し、見逃されやすく、癌化リスクが高いとされています。
      • 伝統的鋸歯状腺腫 (Traditional serrated adenoma, TSA): 比較的稀で、癌化リスクがあります。
  • 非腫瘍性ポリープ:
    • 癌化のリスクは低いと考えられています。
    • 炎症性ポリープ (Inflammatory polyp): 炎症性腸疾患などに伴って発生します。
    • 過誤腫性ポリープ (Hamartomatous polyp): ポイツ・ジェガース症候群などにみられます。
    • 粘膜下腫瘍 (Submucosal tumor, SMT): 粘膜下層に発生する腫瘍で、脂肪腫、平滑筋腫、神経内分泌腫瘍などがあります。内視鏡的にはポリープ状に見えることがあります。

2. 大腸ポリープの診断

  • 大腸内視鏡検査 (Colonoscopy):
    • 最も重要な診断法であり、ポリープの発見、形状・大きさの観察、生検による組織学的診断が可能です。
    • 色素内視鏡 (Chromoendoscopy): 病変の表面構造を強調し、質的診断や範囲診断に有用です。
    • 拡大内視鏡 (Magnifying endoscopy): 微細な血管構築やピットパターンを観察し、組織型や深達度を推定するのに役立ちます。[2]
    • NBI (Narrow Band Imaging) / BLI (Blue Laser Imaging): 特定の波長の光を用いることで、粘膜表層の血管や微細構造を強調表示し、腺腫性ポリープや鋸歯状病変の診断能向上に寄与します。[3, 4]
    • AI (人工知能) 診断支援: ポリープの検出や腺腫性病変の鑑別にAIを活用する研究が進んでいます。[5]
  • 注腸X線検査 (Barium enema):
    • 内視鏡検査が困難な場合や、大腸全体のスクリーニングに用いられることがあります。
    • 小さなポリープの検出能は内視鏡検査に劣ります。
  • CTコロノグラフィー (CT colonography):
    • 仮想内視鏡とも呼ばれ、CT画像から大腸内腔の3D画像を再構築してポリープを検出します。
    • 前処置が必要であり、発見されたポリープの組織学的診断には大腸内視鏡検査が必要です。
  • 便潜血検査 (Fecal occult blood test):
    • 大腸癌スクリーニングの一次検査として用いられますが、ポリープの診断には限界があります。

3. 大腸ポリープの治療

  • 内視鏡的切除 (Endoscopic polypectomy):
    • 大腸内視鏡下に、スネアを用いた切除が最も一般的な方法です。
    • コールドスネアポリペクトミー (Cold snare polypectomy, CSP): 小型(≦10mm)のポリープ、特に鋸歯状病変に対して推奨されます。[6]
    • ホットスネアポリペクトミー (Hot snare polypectomy, HSP): 通電しながら切除する方法で、様々なサイズのポリープに用いられます。出血リスクに注意が必要です。
    • 内視鏡的粘膜切除術 (Endoscopic mucosal resection, EMR): 扁平な大型ポリープや早期癌に対して行われます。粘膜下層に局注後、スネアで切除します。
    • 内視鏡的粘膜下層剥離術 (Endoscopic submucosal dissection, ESD): より大きな扁平・陥凹型病変や早期癌に対して、より確実な一括切除を目指して行われます。高度な技術が必要です。
    • 内視鏡的フル層切除術 (Endoscopic full-thickness resection, EFTR): 粘膜下層以深に及ぶ病変や、従来のEMR/ESDが困難な病変に対して、腹腔鏡補助下などで行われることがあります。
  • 外科的切除:
    • 内視鏡的切除が困難な巨大ポリープや、癌化が疑われるポリープ、内視鏡的に一括切除できなかった癌を含むポリープに対して行われます。

4. 大腸ポリープの癌化リスク

大腸ポリープの癌化リスクは、その種類、大きさ、数、組織学的異型度などによって異なります。[7]

  • 腺腫性ポリープ:
    • 大きさ: 一般的に、サイズが大きいほど癌化リスクが高くなります(特に1cm以上)。
    • 組織型: 絨毛腺腫は管状腺腫に比べて癌化リスクが高いです。管状絨毛腺腫は両者の中間です。
    • 異型度: 異型度が強い(高度異形成)ほど癌化リスクが高くなります。
    • 数: 多発性腺腫(多数の腺腫が存在する場合)は、単発性腺腫に比べて将来的な大腸癌リスクが高いとされます。家族性大腸腺腫症(FAP)は、数百から数千もの腺腫が多発し、ほぼ100%大腸癌を発症します。
  • 鋸歯状病変:
    • SSA/P: 癌化リスクが比較的高いとされており、特に右側結腸に発生するものは注意が必要です。
    • TSA: 癌化リスクがあります。
    • 過形成性ポリープ: 一般的には癌化リスクは低いとされますが、SSA/Pとの鑑別が重要です。

5. 大腸ポリープ切除後のサーベイランス

大腸ポリープ切除後のサーベイランス(経過観察)は、ポリープの種類、数、大きさ、異型度、切除時の状況、患者の背景因子(家族歴など)に基づいて個別化されます。[8, 9]

  • 低リスク群:
    • 少数の小型(<1cm)の管状腺腫で、低異型度の場合、5-10年後の大腸内視鏡検査が推奨されることがあります。
  • 中間リスク群:
    • 1-2個の1cm以上の腺腫、または3-10個の腺腫、または高異型度の腺腫、または絨毛成分を有する腺腫の場合、3年後の大腸内視鏡検査が推奨されます。
  • 高リスク群:
    • 10個以上の腺腫、大きな鋸歯状病変(≧1cm)、高度異形成を有する鋸歯状病変、断片切除となったポリープなどの場合、1-3年後の大腸内視鏡検査が推奨されます。
  • 鋸歯状病変に対するサーベイランス:
    • SSA/Pは、サイズや異型度に応じて、より短い間隔でのサーベイランスが必要となる場合があります。
  • 家族性大腸腺腫症(FAP):
    • 遺伝子検査に基づいた診断と、若年からの定期的な内視鏡サーベイランスが必須です。
  • リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌、HNPCC):
    • 遺伝子検査に基づいた診断と、若年からの高頻度な大腸内視鏡サーベイランスが推奨されます。

6. 最新の知見

  • AI (人工知能) の活用: 大腸内視鏡検査におけるポリープ検出率(Adenoma Detection Rate, ADR)の向上や、腺腫と非腺腫の鑑別、鋸歯状病変の診断支援におけるAIの臨床応用が進んでいます。[5, 10]
  • 便中DNA検査: 大腸癌スクリーニングにおける有用性が示されており、将来的にはポリープの検出にも応用される可能性があります。[11]
  • マイクロバイオームと大腸ポリープ: 大腸内細菌叢がポリープの発生や癌化に影響を与える可能性が示唆されており、研究が進められています。[12]
  • 分子マーカー: ポリープの癌化リスクを予測するバイオマーカーの研究が進められています。[13]
  • 画像強調内視鏡の進歩: より高精細な画像や新しい画像処理技術の開発により、微小なポリープや表面構造の観察能が向上しています。[14]
  • コールドスネアポリペクトミーの重要性: 小型ポリープ、特に鋸歯状病変に対するコールドスネアポリペクトミーの安全性と有効性が再認識されています。[6]

出典

  1. World Health Organization Classification of Tumours Editorial Board. Digestive System Tumours. 5th ed. Lyon (France): International Agency for Research on Cancer (IARC); 2019. (WHO Classification of Tumours, 5th ed.; vol. 1).  
  2. Kudo S, et al. Pit pattern in colorectal neoplastic lesions: close-up endoscopic observation. Gastrointest Endosc Clin N Am. 2002;12(2):169-83, viii.
  3. Gono K, et al. Observer agreement in the assessment of colorectal polyp histology by using narrow-band imaging. Gastrointest Endosc. 2004;59(7):872-6.
  4. Sano Y, et al. Clinical outcome of colorectal lesions diagnosed by using blue laser imaging magnifying endoscopy. Dig Endosc. 2011;23(Suppl 1):132-6.
  5. Misawa M, et al. Development of a computer-aided diagnosis system for colonoscopy based on deep learning. Gastroenterology. 2018;155(6):1551-1562.e3.
  6. Rex DK, et al. Serrated lesions of the colorectum: review and recommendations from an expert panel. Am J Gastroenterol. 2012;107(9):1315-29; quiz 1314, 1330.  
  7. Winawer SJ, et al. Colorectal cancer screening and surveillance. Clinical practice guidelines and rationale–2003 update by the American Gastroenterological Association. Gastroenterology. 2003;124(2):544-60.
  8. Lieberman DA, et al. Guidelines for colonoscopy surveillance after screening and polypectomy: a consensus update by the US Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer. Gastroenterology. 2012;143(3):844-57.  
  9. Rex DK, et al. Post-polypectomy surveillance intervals for average-risk individuals: a systematic review and meta-analysis. Gastrointest Endosc. 2006;64(5):657-66.
  10. Hassan C, et al. Artificial intelligence for the detection and characterization of colorectal polyps: a systematic review and meta-analysis. Gastrointest Endosc. 2020;91(4):801-812.e9.
  11. Imperiale TF, et al. Multitarget stool DNA testing for colorectal-cancer screening. N Engl J Med. 2014;370(14):1287-97.
  12. Tilg H, et al. The intestinal microbiota in colorectal cancer. Gut. 2018;67(11):2034-48.
  13. Grady WM, Markowitz SD. The molecular pathogenesis of colorectal cancer. Annu Rev Genomics Hum Genet. 2002;3:101-28.
  14. विशेषज्ञ Sano Y. Chromoendoscopy and image-enhanced endoscopy for colorectal cancer screening and surveillance. Curr Opin Gastroenterol. 2017;33(5):305-11.

東戸塚メディカルクリニック